五線譜2
Recommend Tracks/Black Contemporary.Funk6

Angela Bofill/『Something About You』

 彼女の最高傑作の誉れ高き珠玉の名盤である。その地位は同時期に発表されたQuincy Jones、Patti Austin、Chaka Khan、Luther Vandross等の傑作群と肩を並べるものだ。全曲申し分のない出来映えなのだが、ここは心を鬼にして(?)数曲のみをピック・アップする。プロデューサーのNarada Michael Waldenの色が強く出たタイトルソングが有名だが、個人的には<Tropical Love>を推薦したい。タイトル通りアイランドな雰囲気が満喫出来る逸品。また<Only Love><I Do Love You>も必聴だ。前者は『Free Soul Impressions』にも収録された、ダンサブル&メロディアスなナンバー。 ブラジル的隠し味も程良く利いている。一方後者は、流れるようなフェンダー・ローズのイントロからスタートする、クリスタル/アーベイン感覚満載の秀曲。泣きのメロディを中心に静と動のコントラストが1曲の中で演じられる様は、正に一つの舞台である。哀愁味溢れる<Time To Say Goodbye>も、素通り出来ぬ美しさを誇るバラードだ。     
Angela Bofill/『Too Tough』

 前作の完成度の高さはそのままに、より現代的なビートを随所に取り入れ始めた1枚。その指向性はタイトル・ソングに顕著で、来るべきブラコンのテクノ化(?)を先取りしたモノである。但し曲の出来は、従来通りのコンテンポラリー路線が貫かれた、他のナンバーの方が勝っている。モータウン・クラシックのカヴァー<Ain't Nothing Like The Real Thing>では、デュエット・パートナーにあのBoz Scaggsを迎え、甘い語らいを演ずる。聴き所は6曲目からのセルフ・コンポーズ&プロデュース・サイド(LPではB面)。<Is This A Dream>はかなり強力なダンス・ナンバーだが、メロディが泣かせ系なので感触は心地良い。<I Can See It In Your Eyes>は必殺ミディアム・フロウ。ラテン色を適度にまぶしたトロピカルな感覚には、身も心もとろけてしまいそう。しっとりと歌われる<Song For A Rainy Day>と<Accept Me>も素晴らしい。
Angela Bofill/『Teaser』

 Naradaとのコラボレイションもこれで3作目。前作のタイトル・ソングで提示したエレクトリック・スタイルは、ここでより一層強固たるものとなる。従って好ましい評価は得られず、彼女の黄金期の作品の中でも、最も影の薄いモノとなってしまった。しかし凄まじい完成度を誇示していた前2作と比較しなければ、これもなかなか聴き応えのある1枚なのだ。<Call Of The Wind><Nothin'But A Teaser>等は、サウンドの構造に騙される事無かれ。しっかりしたと泣きのメロディを聴かせる秀曲だ。スローは3曲と少ないが、どれも推薦に値するものばかりだ。<I'm On Your Side>は当時シングル・ヒットもした美しきバラード。そしてミディアム・フロウの2曲が完璧。<You're A Special Part Of Me>はJohnny Mathisとのデュエット。絶妙なハーモニーがメロディアスな曲に溶け込み、絶品のムードを創造する。そしてベスト・カットに相応しい<Gotta Make It Up To You>。あらゆる芸術性を兼ね備えた究極のナンバーだ。
Phyllis Hyman/『Somewhere In My Lifetime』

 ブラック・コンテンポラリー界が生んだ至宝、Phyllis Hyman。彼女のイメージはエレガントでゴージャス。ダリアの様な可憐なルックスもさることながら、最大の魅力は歌唱力。しかも中低音域に特徴を持たせた独特のヴォーカル・ワークは、黒人女性=高音という固定概念を、根底から崩壊させるものだ。それだけに自殺という形でこの世を去ってしまった事は、あまりに無念でならない。
 さて前置きが長くなってしまったが、この作品はアリスタ移籍第一弾。通算3枚目となる。Barry Manilow等、色々なプロデューサーのクレジットがあるが、Skip Scarborough絡みが、一番彼女にフィットしている。ミディアム&バラードの<The Answer Is You>や、妖艶な雰囲気満載の<Be Careful>、NiteflyteのSandy Toranoがコンポーズに絡んだ<Soon Come Again>の出来が素晴らしい。そして白眉は<Gonna Make Changes>。都会派真夜中サウンドを演じさせたら。彼女の右に出る者は存在しないだろう。
Phyllis Hyman/『You Know How To Love Me』

 彼女のファンは日本にも多いが、何故かコレクターや音楽業界関係者等、玄人筋に特に支持されている。耳が肥え、本物を聞き分ける事が出来る彼らの、厳しい希求に堪えうるという事は、それだけ彼女の才能が壮絶であるという証拠だ。この作品でもその魅力を惜しげもなく披露している。プロデュースを担当したのは、何とJames MtumeとReggie Lucasの必殺コンビだ。Stephanie Mills等に代表される独特の都会派サウンド・メイキングは、Phyllisの個性と絶妙なマッチングを魅せ、絶品のアルバムを完成させた。タイトル・ソングは彼女を語る上で忘れてはならない程のヒットを記録。『Free Soul Walk』に収録されたり、Lisa Stansfieldにカヴァーされたりと、今でも生き続ける名曲である。同路線の<Under Your Spell>でも、サビに於ける狂おしいまでのメロディ展開は、聴いてるこちらの胸を熱く焦がす。バラードは<But I Love You>と<Conplete Me>、ミディアム・フロウなら<Some Way>と<Give A Little Love>を強く推薦したい。
Phyllis Hyman/『Can't We Fall In Love Again』

 個人的には3作品中最も好きな作品である。アルバム・トータル的な完成度でも一番だと断言出来るであろう。良い曲は身震いする程に素晴らしかったが、全体を通すとややツメの甘さが目立った前作と比較すると、楽曲のバランスが非常に安定しており聴き応えも十分。彼女のヴォーカルも今まで以上に、圧倒的な存在感で迫って来る。プロデューサーのNorman Connorsは、自らのアルバムで彼女を起用し好事者の注目を集めさせた、ある意味で恩人的な存在。それだけに彼女の全てを知り尽くした、的確な手腕を魅せている。<You Sure Good To Me>(これのみNormanは無関係)は、軽快なビートと高揚感溢れるメロディが魅力的な逸品。 バラードは<The Sunshine In My Life>と、Michael Hendersonとのデュエット<Can't Fall In Love Again>が秀逸だ。独特のしっとりと濡れた感覚は、単なるお洒落モノでは終わらない、濃厚な雰囲気に満ちている。Burt Bacharachがコンポーズに絡んだ、ミディアム・フロウの<The Love Too Good To Last>も聴き所。尚、Odyssey(黒人の方)の曲を取り上げた<Don't Tell Me,Tell Her>と、<I Ain't Asking>(オリジナルはAshford & Simpson)は、Free Soulファンならば、絶対の必聴曲だ。
Phyllis Hyman/『Goodess Of Love』

 邦題『愛の女神』。これでアリスタ4作品のレビューが出揃う事になった。さて完璧に相応しい前作を上回るべく迎えたプロデューサーは、Narada Michael Waldenとフィラデルフィアの大御所Thom Bell。Naradaの方はダンス・ナンバー担当だが、彼自身のソロ『The Dance Of Life』に収められていたミディアム・フロウ、<Why Did You Turn Me On>を取り上げており、情感溢れる解釈はオリジナルを遙かに超越している。一方Thomの方は彼お得意のストリングスを豪快にフィーチャーしたバラードが殆ど。70年代中期にタイム・スリップした様な雰囲気を醸し出す、<Let Somebody Love You>と<Falling Star>の出来は圧倒的だ。あとミディアム・アップの<We Should Be Lovers>も珠玉と呼ぶに相応しい名曲である。
Evelyn“Champaine”King/『Smooth Talk』

 記憶に間違いがなければ、78年のデビュー当時は確か17〜18歳であった。それでこの歌唱力である。しかも高音を張り上げるのではなく、中音〜低音域に特徴を持たせ、ズッシリと重量感溢れる歌を聴かせるのだ。デビュー曲となった<Shame>は、90年代に入ってZhaneがカヴァーした事により、若いソウル・ファンにも知られる事になった名曲である。個人的には覚えやすいメロディとキャッチーなサビが印象的な<I Don't Know If It's Right>を推したい。これも当時シングル・ヒットしており、しかもFree Soulとしても、十分に通用する要素を持ち合わせているのだ。
 ちなみに世界初CD化された時にはアメリカでの初回盤を使用している。したがって<Shame>は4分40秒のショート・ヴァージョン。ジャケットも異なる(手元に無いのが残念だが、白地のバックに横向きアップの写真が写っているモノが、一般的にはポピュラーかも知れない)。
Evelyn King/『I'm In Love』

 通算4枚目。そして今までのストレートなディスコ路線とは趣を変え、製作陣を一新して、80年代らしいコンテンポラリーなサウンドにチャレンジしてきた。プロデュースに加わったMorrie Brownは、あのB.T.Expressの『1980』を手がけた事で有名。更にはソング・ライター及び共同プロデューサーとしてKashifも参加しているのだ。この後にMelba Moore、Howard Johnson(Niteflyte)、Kenny G、Whitney Houston、Dionne Warwick等を手がけ、一時代を築き上げる彼の凄まじい才能の片鱗が、既にここで聴けるのだ。ヒットしたタイトル・ソングのアップ・トゥ・テイトな感覚は、今聴いても最強の格好良さを誇る。同路線の<If You Want My Lovin'>も格別だ。またもう一方のプロデュース・コンビである、WillieLester&Rodney Brown(元Modulations、Sharon Redd、Waldo等の制作でも有名)も良い仕事をしており、サビが強力な<What Are You Waiting For>や、サウンド・メイキングがどこか70年代の名残を感じさせる、ミディアムの<The Other Side Of Love>は聴き応え十分だ。
Evelyn King/『Get Loose』

 前作では影武者な立場だったKashifが、ここで一気に才能を開花させる。メインの名義こそMorrieだが、サウンドを聴く限りでは、完全に彼が主導権を握っていると言っても過言ではない(後年ソロとして活躍する、Paul Lawrenceの存在も見逃せない)。それは<Love Come Down>に顕著だ。当時大ヒットとなったばかりでなく、今やダンス・クラシックの殿堂入りを果たした、80年代を代表する秀曲である。この曲の凄まじいまでの革新性は、アルバム全ての楽曲を、勢いのあるモノに変えた(と言うか、この後数年のブラコン・シーンの流れをも変えてしまうんだが...)。<I Can't Stand It>やタイトル・ソングのソリッドな感覚も実にハマっている。<Back To Love>と<Stop That>は、<Love...>と双璧を成す魅惑のメロディ作りと、切れ味鋭いビートが無理なく溶け合った逸品。ミディアム・フロウの<I'm Just Warmin'Up>のムード作りも完璧だ。

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