その(2)

 タワー・オブ・パワー(以下TOP)は91年の傑作『Monster On A Leash』発表以来、黄金期を迎えている。勿論最強の時代は72〜75年というのは当たり前だが、ここ最近の彼らは自信に満ち溢れ、多くのプロ/アマのミュージシャンの絶大なるリスペクトもあり、すっかり安定した活動を続けている。特に日本では89年のJeff Beckらと行ったイベント以来、人気が上昇気流に乗っている。2008年には結成40周年を迎え、その記念ライブもOBメンバー等のゲスト多数参加により、最大級の盛り上がりを見せた。日本でも2時間半に及んだBlue Note Tokyoのライブは、早くも伝説化している。
 さて今回再評価をお願いしたいのは76〜79年のCBS時代。一般評価は惨の限りだ。確かに会社の売れ線強要による迷走も随所で感じられるが、落ち着いて耳を傾けると意外にも名曲が多い。今回はその部分にフォーカスを当てる事にする。
Ain't Nothin'Stoppin'Us Now『夜の賭博師』(1976)

 非難を承知で言ってしまうと、実は前作スタジオ・アルバム『In The Slot』よりも好みである。CBS移籍第1弾。そしてこの時期の同社に於ける最も大きな契約であった。恐らく同じ頃に全盛期を築いていたChicagoの二番煎じを狙おうとしていたのかな?(でも音楽性はかなり違うんだけど...)。で内容だが、正にソウル・ミュージックと呼ぶに相応しい、力の入ったアルバムに仕上がっている。タイトル・ソングこそやや消化不良だが、次の<By Your Side>はCurtis MayfieldやLeon Ware、Leroy Hutsonあたりを彷彿とさせるメロウネスが実に心地よいナンバーだ。<You Ought To Be Havin Fun>は彼ら流ディスコ・アンセム。やや軽めでメロディアスな<It's So Nice>や、黒々とした雰囲気を漂わせる<Deal With It>も良い出来。そして問答無用のベスト・トラックが<While We Went To The Moon>。ゆったりリズムの合間を進行するRoccoのベース。そしてChester Thompsonの絶妙なストリングス&ホーン・アレンジ。幻想感漂うメロディ・ラインも秀逸で、何度耳にしても高揚感を押さえきれない、スケールの大きな逸品である。この曲を聴くたびに思い浮かべるのは、何故かあの『Back To Oakland』のジャケット(汗)。
 このアルバムの大きな問題はヴォーカリストだ。Edward McGeeはファルセットを多用するPhillip Baileyタイプ。彼の起用は恐らくEW&Fへの意識も念頭にあったのだろう。しかしPhilipと比べると実力不足は否めないし、何よりも肝心のファルセットが汚い。しかも前任者が一部ではTOP史上最強とさえ言われていたHubert Tubbs(今その座に居るのはLarry Braggsか?)。なので余計に始末が悪い。Hubertが続投してくれれば、どの曲も珠玉の名曲と成り得た事は確実である。残念で仕方がない。
 もう一人メンバーが替わっている。David Garibaldiが抜け、Ronnie Beckという黒人ドラマーが参加している。75年来日公演直前に加入したとの事だが、足技が達者との事。しかしアルバムではその部分はちょい押さえ気味。タイプ的にはSteve Ferrone(元AWB)に近いのかな?
 この様に落ち着いて耳にすると、魅力再発見の多い事に気づく。彼らもそれを感じているのか、21世紀に入ってからのライブでは、ここからの曲がライブで演奏される機会が多くなった。なので今なら再評価の絶好のタイミングなのかも知れない。ちなみにメンバーがズラリと並んでポーズを決めている裏ジャケットもカッコイイ
WWe Came To Play『オークランド・スタジアム』(1978)

 故松田優作氏演ずるジーパン刑事が、死に際に残した「なんじゃあ!こりゃあ!」の台詞。これは当該作にそっくり当てはまる(爆)。Roccoがツアー疲れで脱退を表明(という事らしいが、何の文献を参照したか覚えていない...汗)。Bruce ConteのいとこであるVictor Conteが加入する。これがまず敗因の一つ。彼も結構キャリアのあるベーシストなのだが、プレイが全くTOPに合っていない。この為リズム・パターンが従来の彼らと全く変わってしまったのだ。またEdward McGeeが抜け(当たり前だ!)Michael Jeffriesが加入するが、歌い方に結構クセがあるので、かなり好き嫌いが分かれているようだ。
 冒頭のタイトル・ソングがまずヤバイ。いつもの彼らならばソリッドに仕上げることなんぞ朝飯前の筈だが、ここでの腑抜け具合は一体どうしたものか?しかもシンセ・ベースが多用されており、これには耳を塞ぎたくなる思いだ。要するにVictorが弾けない人間なので、ベース・パートのヘルプをしているのであろう。始末に終えないとしか言いようがない。次の<Lovin'You Is Gonna See Me Thru>ではクラヴィネットまで登場しており、これまでの彼らからすれば、泣くしかないような音が次から次へと飛び出してくる。B面(後半5曲)ではやや持ち直すが、それでもワーナー時代は言うに及ばず、前作と比べても完成度の低さに唖然となる。<Bittersweet Soul Music>は別に彼らがやる必要はないし、バラードの<Am I A Fool>は殆ど<Young Man>のサンプリング状態。アップもどれも聴くに値しないものばかりだ。
このメンバーで勿論ツアーをしていたのであろうが(中ジャケ参照)、<Hip><Young Man>等を演奏していたかと思うと背筋が凍る思いだ。

(追記)だが...ここ最近の彼らのツアーのセットリストにタイトル・ソングが入っているのだ。勿論来日公演でも披露され、私も何回か耳にする機会を得た。そしてその出来の素晴らしさに驚愕してしまったのだ。この粗悪な素材を見事に調理したRocco & Garibaldi。そしてVoのLarry Braggsの才能には敬意を表するしかない!
Back On The Street(1979)

 79年。私が高1だった時に出たアルバム。そしてこれが何とTower初体験であった(これが『Back To Oakland』だったならば、どんなに自慢できた事か...)。しかしそれだけに、この時代の3枚の中では結構思い入れが強い。当時Blackチャートでちょろっとヒットした<Rock Baby>なんかは、TOP版<September>と思えばかなりポイントが高いナンバーである。他にもポップ指数の高い<Our Love>や、これまた流行にピタリと照準を合わせた<Something Calls Me>。Cheryl Lynnとヴォーカルを分け合う、TOP版<Georgy Porgy>(TOTO)とも言える<In Due Times>。久々に硬派で引き締まったプレイを聴かせる<Just Make A Move(And Be Yourself)>などは、決して避難の的となるものではない。ちなみにベスト・トラックのバラード<Heaven Must Sent You>は、Light Mellow人気盤として最近評価を上げた、Piecesのナンバーを取り上げたもの。どちらが先に発表されたのかは分からないが、演奏力及び楽曲のアレンジは圧倒的にこちらに軍配が挙がる。
 メンバーはここでDavid Garibaldiがいきなりの復帰である。しかしワーナー時代のあの常識外れの四肢体のコンビネーションは、残念ながら聴けず終い。これならばGraham Lear(元Gino Vannelliバンドで、この当時はSantanaに在籍)の方がGaribaidiっぽい。もし「叩くな!」と文句を付けた人間の為にGaribaldiが本来の持ち味を出せずにいたのであれば、そいつは終生遠島モノでしょうなぁ(爆)。
 BassはVito San Filippoというヒト。この時代ならではのチョッパーを駆使した持ち味が特徴。前任者に比べれば素晴らしいプレイヤーだが、Roccoとはやはり次元が違いすぎ。まあ比較すること自体が相当に無理があるというもの。ここは素直に楽しみたい所だ。
 モータウンのカヴァー<Nowhere To Run>こそ余計だが、それ以外はかなりポイントの高い楽曲が詰まっている。それ故に私の周りでは「好き!」という人間が多いのも特徴である。
という事で、『Ain't〜』と『Back〜』は是非とも再評価をして欲しいものである。
ちなみに今回取り上げた3枚が2枚組CDになっているので、是非この機会に入手して聴いて下さいまし。

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五線譜2

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