Freeman's Index On The Web (3)

究極の熟女、Dionne Warwick

 今回は女性。しかも大御所中の大御所、Dionne Warwickを取り上げたいと思う。
彼女で思い出されるのは、やはりBurt Bacharachと組んで誕生した、60年代のヒット曲の数々。<Alfie>、<Don't Make Me Over>、<Walk On By>、<Anyone Who Had Had A Heart(恋するハート)>、<I Saw A Little Player(小さな願い)>、<Do You Know The Way To San Jose(サン・ホセへの道)>、<Promises Promises>、<This Girl's In Love With You>、<I'll Never Fall In Love Again(恋よさようなら)>etc...etc...。数多くのヒット曲を連発。これらは今でもどこかで耳にする程の代表曲ばかりだ。
 今回はその時代ではなく、72年に新境地を求めてWarnerに移籍してから、79年にグラミーを獲得し、新たな黄金期を築いたArista時代を90年で区切る形で追ってみたいと思う。

『Dionne』

 Warner移籍第1弾。と言っても製作陣はBurt BacharachとHal Davidなので、基本路線は同じ。しかし曲に全く冴えが見られず、黄金トリオにも限界が生じてきていたのが、この作品を聴く度に感じる。それでも聴き所は随所に用意されており、Bacharach独壇場のメロディが展開される<Be Aware>や、Lesley Duncanのオリジナルで、Lani Hallの名演で知られる<Love Song>などはやはりグッとくる。<One Less Bell To Answer>と<Close To You>のカヴァーは、残念ながら完成度低し。
『Just Being Myself』

 ここで遂にBacharachと袂を分かち、モータウンのヒット・メイカーとしてその名を馳せた、H−D−Hの内の二人Lamont Dozierと、Brian Hollandを製作陣に迎えた新境地的作品。当時の邦題も『ディオンヌの新しい世界』と付けられた程なので、かなり注目を集めた作品だったのであろう。オープニングの<You're Gonna Need Me>から前作とはかけ離れた、黒々とした雰囲気が曲全体を支配。タイトル・ソングや<Come Back>では、いかにものモータウン的な展開が、聴き手の心を揺さぶる。しかしバラードではそれ程冒険していないので、60年代Dionneのファンもご安心を。
『Then Came You』

 Free Soul教科書『Suburban』で紹介され、一躍有名アルバムの仲間入りを果たした作品。<Move Me No Mountain>は、高揚感溢れるストリングスが実にドラマティックな珠玉のナンバー。『Free Soul River』のコンピにも収録されている。オリジナルはBarry Whiteの秘蔵っ子Love Unlimited。その後Chaka KhanやSoul II Soulも取り上げている。タイトル・ソングはSpinnersとの共演による軽快なナンバーで、当時全米No1を記録している。個人的にはソウルフルな要素が凝縮された<Take It From Me>、Bacharach時代の余韻を残す<Who Knows>がフェイバリットだ。
『Tracks Of The Cat』

 Stylistics等のヒットに貢献した、フィラデルフィアの立役者Thom Bellのプロデュースによる作品。バックをMFSBが担当する等、フィリー・ファンにはたまらない要素も。勿論曲にもそれは言えており、タイトル・ソングでお約束の世界が早くも満喫出来る。<World Of My Dreams><Jelousy>を聴くと、何故制作がGamble & Huffではなく、Thom Bellなのかという解答がそこに存在する。<This Is Love>も素通り出来ぬ佳曲。彼女流ソウル美学が貫かれた、実に黒いアルバム。
『Love At First Sight』

 この後のAOR路線を予感させる、アダルトで都会派の音を聴かせる1枚。プロデュースはSteve BarriとMichael Omartian。内容的には同時期に彼が手掛けたWatersと共通する部分が多い。必殺の名曲が<Don't Ever Take Your Love Away>。濃密な雰囲気に彼女の優しき歌唱が絡む素敵なナンバー。この作品はB面の出来が素晴らしく、軽快な<One Things On My Mind>や<Early Morning Strangers>あたりの要素は、間違いなくOmartianが持ち込んだものであろう。アメリカン・ポップスの伝統を継承した<Livin'It Up Is Startin' To Get Me Down>などは、彼女十八番とも言える実力が満喫出来る。
 実はこの前後にIsaac Hayesとのライブが出ているのだが、持っていません(をい)。
『Dionne』

 Arista移籍第1弾。プロデュースには当時飛ぶ鳥を落とす勢いであった、あのBarry Manilowを起用。シングル・ヒットを記録した<I'll Never Love This Way Again>はいかにものBarry節と言えるバラード、しかもソング・ライティングは、これまたBarryのヒットに貢献したRichard Kerrだ。<After You>と<Feeling Old Feelings>、<My Everlasting Love>も同路線。そして個人的一押しの3曲。<Who What When Where Why>はRupert Holmes作。MadelaineのFree Soul特大ヒットで有名になったあの曲である。<Deja Vu>はIsaac Hayesによる圧倒的な美世界が創造された、必殺ミディアム・フロウ。シングル・ヒットしたのがちょっと意外な程だ。
極めつけは<In Your Eyes>。どこまでも物悲しく静寂な旋律は、全ての聴く人間の細胞にまで訴えかける。

 この作品でグラミー賞を獲得したり、東京音楽祭でグランプリを獲ったりと記録が続出。ポピュラー界を代表する1枚となった。
『No Night So Long』

 特大ヒットを記録し、輝かしい第2黄金時代の幕開けを飾った前作と、ほぼ同路線で作られた好盤。プロデュースはMelissa Manchester等を手掛けてきたSteve Buckingham。推薦曲を挙げたらキリがない位に内容は充実を極めており、個人的には前作より好みである。ミディアム・アップの<Easy Love>、あの<Deja Vu>ですら霞む程の恐ろしい程に華麗な<We Never Said Goodbye>、Peabo Brysonの出世曲の秀逸カヴァー<Reaching For The Sky>、Peter Allenの隠れた名曲のカヴァー<Somebody's Angel>。そして号泣モノのバラードが<We Had This Time>。当時オムニバス・テープを作る際に、必ずB面の最後に入れていたほど思い入れの強い曲である。
『Live And Otherwise』

 新たな全盛期を迎えた彼女の、素晴らしきショーの魅力が堪能できる1枚。<What You Won't Do For Love(風のシルエット)〜In The Stone>のカヴァー・メドレー、Larry Grahamの<One In A Million You>のカヴァーはここでしか聴けない。圧巻はやはりBacharach Hit Medleyだ。あとスタジオ録音の新曲も5曲収録されており、Doobie Brothersのカヴァー<Dedicate This Heart>もいいが、やはり<There's A Long Road Ahead Of Us>、<Some Changes Are For Good>、<Now We're Starting Over Again>のMichael Masser絡みのバラード3発に悶絶だ。ちなみにこの作品は輸入盤レコード、国内盤レコード、輸入盤CD、国内盤CDと全て曲数が違っている。一番お買い得なのは、2枚組でコンプリートな形の輸入盤レコードだ。しかも最近それにボーナス・トラックを加えた再CD化も実現している。
『Friends In Love』

 名盤数あれど、聴く度に生きてて良かったと感じさせるモノはやはり限られている。この作品は正に人生屈指の1枚。彼女の全作品の中で最高傑作となったばかりでなく、AORというジャンルの中でもトップ・クラスの完成度を誇る、神格化されて当然の圧倒的名盤。ここまで素晴らしすぎると、恐怖、戦慄等、逆説的な表現を用いたくなる位だ。プロデュースはJay Graydon(この頃の貴方は本当にネ申です!)。<For You>の甘美で幻想的な世界に、当時のクリスタル族はノックアウト。<Never Gonna Let You Go>は1年後にSergio Mendesかカヴァーし、大ヒットさせた名バラード。<With A Touch>では作者Stevie WonderとJayの共演が実現。曲も彼自身の<Lately><Overjoyed>に匹敵する美世界が満喫出来る。あとタイトル・ソングと<Got You Where I Want You>はJohnny Mathisとのデュエット。前者のバラードの人気は絶大だが、メロディアス・ミディアム・フロウを極めた後者の方が個人的には好みだ。
 推薦文はこれでも書き足りない程!本当に掛け値なしの真の名盤だ!
『Heartbreaker』

 セールスはともかくとして、内容的には革命的だった前作から、たった半年で出された作品。プロデュースはBarbra Streisandの『Guilty』を、特大ヒットにしたBee GeesのBarry Gibb。内容的には前作に及ばない(比べる方が間違っています!)ものの、半年で制作されたとは思えぬ程、実に丁寧な仕上がりを魅せている。発表された時期が冬に近かったので、心温まるバラードが大半を占めており、<Yours><All The Love In The World>等で独特の気品溢れる世界が堪能出来る。ミディアム・フロウの<Misunderstood>はアルバム中のベスト・カット。
タイトル・ソングは本国よりも日本で大いに支持された。
『How Many Times Can We Say Goodbye』

 今までAOR王道路線を走ってきた彼女が、ここでR&Bに対する意欲を見せ始め、プロデュースに何とLuther Vandrossを迎えて制作した作品。バラードの<So Amazing><Two Ships Passing In The Night>、Michael McDonaldのカヴァー<I Can't Let Go Now>は圧倒的な説得力で迫ってくる。が、全体の完成度は今イチ。Lutherの才能と彼女との相性があまり良くないのだ。また曲自体もあまり感心出来るものではない。何となくオクラ曲を、適当に見繕って渡したという感じだ。同時期のLuther自身の『Busy Body』が結構好きだったので、その差の違いに疑問符を多く投げかけたものだ。また全8曲で計36分しかなかったというのも、落胆に拍車をかけてしまった。個人的にはあまり推薦したくない。
『Finder Of Lost Loves』(『Without Your Love』)

 Dionne自身も自分の本来の姿を再確認したのかは分からないが、この作品では再びAOR王道路線に戻っている。が、このアルバムもそうなのだが、その後何枚か今イチ締まらない作品を連発してしまうのだ。つまり楽曲は素晴らしいのに、完成度が低いというパターン。
ここではStevie Wonderの『The Woman In Red』で披露したデュエット2曲を再び収録するという、あまり感心出来ぬ事実が存在している。しかし他は流石と言える楽曲が揃っており、久々のBarry Manilowとの組み合わせとなる<No One In The World>に、多くのファンは胸を撫で下ろしたものだ。そして珠玉の名曲<Bedroom Eyes>。あの<Deja Vu>を超越した気品と美世界は聴く度にトリップ状態。また最大の目玉は、あのBurt Bacharachが13年ぶりに制作に参加した事だ。そのタイトル・ソングは、Glenn Jonesとのデュエット。細胞の核にまで素晴らしさが浸透する程の名バラードだ。
『Friends』

 <That What Friends Are For(愛のハーモニー)>は、Elton John、Stevie Wonder、Gladys Knightの参加したエイズ・チャリティー絡み(だったっけ?)のバラード。86年度ビルボード年間シングル・チャートでNo1を獲得。実はコレ、あの超絶名盤『Friends In Love』に匹敵する凄いアルバムである(前半はやや感心しない曲が続くが...)。David Fosterのソロに入っていた<Love At Second Sight>の、彼自身のプロデュースによる秀逸リメイク。Carole Bayer Sagerのこれまた超絶名盤、『Sometimes Late At Night』収録の<Stronger Than Before>の絶賛カヴァー。そしてBurt Bacharachが本気で取り組んだ楽曲(計5曲)の凄まじき完成度(Barry Manilow制作の1曲も良い!)。CD店の店頭やネットショップで見かけたら、是非購入して頂きたい逸品である。
『Reservation For Two』

 日本でも人気が安定したこの頃。タイミングの良いリリースとなった。<Love Power>はJeffrey Osborneとのデュエットによる壮絶ミディアム・フロウ。中間のSax Soloは何とKenny Gだ!この曲はCMに使われた関係で大ヒットとなったが、歌詞が日本盤と米国盤とは異なる(ちなみにジャケも少し違う)。あと他にもデュエット曲が4曲。パートナーはSmokey Robinson、Howard Hewett、Kashif、June Pointerだ。アルバムは相変わらず半端な作り(<No One In The World>が何故かまた収録)だが、良い曲は徹底的に素晴らしく、<Close Enough><In A World Such As This><Cry On Me><For Everything You Are>は、胸が焼け焦げる程の高揚感に悶絶だ。Jerry Knight & Aaron Zigmanのコンビが実にいい仕事をしている。
Greatest Hits 1979-1990』

 Aristaに於ける第2黄金期を象徴するヒット曲が詰まったベスト。選曲に不満がないと言えば嘘になるけれど、代表曲は全て網羅されているので、入門者には最適。ここでしか聴けない曲が3曲。<I Don't Need Another Love>では、Spinnersとの何と16年ぶりの共演が実現。<Walk Away>は地味ながらも、聴く度にじわじわと良さが伝わる佳曲。そして必殺バラードはBurt Bacharachの手による<Take Good Care Of You And Me>。Jeffrey Osborneが再びデュエットに参加し、Dionneと限りなき愛の語らいを演ずる。
 ちなみに98年に国内盤でなかなか良いセレクトのベストが出ているので、初心者の方はそちらの購入から先にお薦めしたいところ。
『Sings Cole Porter』

 Dionne位の歌い手ならば、一度はこの手のスタンダード・アルバムは存在して当然だろう。と言うわけでCole Porterの楽曲で構成した企画アルバムが90年に登場。但し個人的には特に思い入れが無いので、あまり書くことは無い(汗)。尚<Night And Day>は同時期にLalah HathawayのヴァージョンがたばこのCFに使われたため、話題を奪われてしまった感がある。
こっちの方はゴージャス過ぎたので、CFには向かなかったかな?。
『Friends Can Be Lovers』

 93年に出たポップ指向のアルバム。まず注目はタイトル・ソング。当時一世を風靡していたLisa Stansfieldの書き下ろしで、曲調も彼女の<All Around The World>を彷彿とさせる雰囲気で心地よさ満点!<Much Too Much>もLisa及び彼女のスタッフが制作に絡んだナンバーで、これも良い出来である。一方バラードはややメロディが平坦であまりお薦め出来ないが、Burt Bacharachが絡んだ<Sunny Weather Lover>や、Stingのカヴァー<Fragile>は流石の完成度だ。ちなみにアルバムの売りである姪のWhitney Houstonとのデュエットは残念ながら曲が今イチ。
 ポイントは<I Sing At Dawn>。実は日本の曲で、岸洋子の<夜明けの歌>である。結構良さげなヴァージョンに仕上がっているが、他の曲との違和感はやはり避けられない。
『Aquarela Do Brazil』

 95年に出たアリスタ最終作で、全編ブラジルもののカヴァー。当時試聴機で聴いただけなので、詳しいコメントは控えさせて頂く。


こぼれ話
 大傑作の『Friends In Love』だが、これの輸入盤(レコード)には難点が一つ存在した。<For You>についてだが、多分プレスミスなのだろうが、同じ場所で針飛びを起こしてしまうのだ。しかも通常では気付かない、そのまま曲として進行しても分からない様な、絶妙な(?)飛び方を。私は買った店に3回も取り替えてもらったのだが、どれも状態は同じ。国内盤に買い換えるのも腹立たしかったので、磨り減った針で針飛び部分のスクラッチを開始。結果、ムゴイ傷音が付いた引き替えに、何と修復に成功。そのまま愛聴盤として何百回と聴き続け、遂に盤全体を磨り減らす事に成功(爆)。CD化した時に中古盤屋に売ったのだが、付いた値段は確か10円だったと記憶している。


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